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現代ビジネスにおいて「企業価値の向上」が重要さを帯びてきています。適切な施策によって企業の持続可能な成長が実現すれば、投資家からの評価も高まるでしょう。
そこで今回は、企業価値を高めるためにどのような取り組みが必要なのか、計測方法から具体的な向上策まで、実際の成功事例とともに解説します。
企業価値という言葉は日常的に使われますが、正確な意味を理解していない経営者も少なくありません。単なる株価や時価総額だけでなく、より広範な概念として捉える必要があります。企業価値の本質を把握することで、経営戦略の方向性が明確になるでしょう。
企業価値とは、現時点での社会における企業全体の経済的価値を示すものです。
投資判断やM&A(合併・買収)における重要な根拠や基準といえるものです。
企業価値の捉え方は多様で、従来は事業によって生み出される利益やキャッシュフローが中心でした。しかし、近年は単に財務上の数値だけでなく、環境対応や社会貢献活動など非財務的な要素も重視されるようになってきているのです。
中小企業や個人事業主にとっても企業価値の概念は重要です。例えば、事業承継や資金調達の際に企業価値が高ければ、有利な条件で交渉できる可能性が高まります。
大企業だけでなく中堅・中小企業でも、企業価値を意識した経営が求められる時代です。バランスシート上の数値だけではなく、市場における評価や将来性まで含めた総合的な価値を高めることが求められています。
企業価値には事業から生み出される事業価値に加えて、預金や遊休地などの非事業用資産も含まれます。さらにのれん(超過収益力)や、貸借対照表に計上されないブランド力、技術力といった無形資産・知的財産なども企業価値を構成する重要な要素です。
事業承継の場面では企業価値評価が特に重要です。後継者に事業を引き継ぐ際、適正な評価がなければ相続税や贈与税の問題が生じたり、関係者間でトラブルになったりするおそれがあるでしょう。
企業価値評価の方法は一般的に3つのアプローチに分類できます。インカムアプローチ、コストアプローチ、マーケットアプローチという評価手法があります。
インカムアプローチは、会社が将来的に得られる収益やキャッシュフローに着目する評価方法です。
DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)や収益還元法がよく用いられます。
将来の利益を現在価値に割り引いて計算するため、成長企業の評価に適した手法です。
DCF法では将来のフリーキャッシュフローを予測し、それを資本コストで割り引くことで現在価値を算出します。専門的な知識が必要ですが、理論的に最も優れた評価方法と考えられています。
収益還元法は将来得られる利益を資本還元率で割ることで企業価値を算出する比較的シンプルな方法です。中小企業の評価でよく使われますが、将来予測の精度が結果を左右します。
コストアプローチは、会社の純資産に着目した評価方法です。
純資産価額法とも呼ばれ、貸借対照表上の資産から負債を差し引いた価値を基準にします。
簡単にいえば、資産価値が高い企業の評価に適した手法です。簿価純資産法、時価純資産法、修正簿価純資産法など様々な種類があり、目的に応じて使い分けることが重要です。
ただし、負債の過小評価や簿外債務の存在には注意が必要です。
不動産業や製造業など資産を多く保有する業種での評価に向いていますが、ITやサービス業など無形資産が主体の企業評価には不向きな面があります。
マーケットアプローチは市場や類似会社との比較に基づく評価方法です。
類似上場企業比較法や取引事例比較法などがあり、実際の市場価格を参考にしながら評価ができます。
類似上場企業比較法は、評価対象企業と似た事業を行う上場企業の株価を参考に企業価値を算出します。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった指標を用いるのが一般的です。
取引事例比較法は過去のM&A事例を参考にする方法で、同業種の取引価格から妥当な企業価値を推定します。最近の市場動向を反映した評価が可能ですが、適切な比較対象を見つけることが難しい場合もあります。
実務では複数の評価方法を併用し、総合的に判断することが多いようです。中小企業の場合、専門家のアドバイスを受けながら自社に適した評価方法を選択することが望ましいでしょう。
収益力を高めるには、売上アップとコストカットを同時に進めることが効果的です。売上アップには営業力強化や適切な価格設定、新規顧客開拓などが有効です。
コストカットでは業務効率化やアウトソーシング活用、不採算事業からの撤退なども検討すべき選択肢です。中小企業の場合、まずは本業の利益率改善に注力するのが王道です。
原価管理の徹底や固定費の見直しなど、身近なところから始めることが重要です。粗利益率が業界平均を下回っている場合、価格設定や仕入れ条件の見直しが必要かもしれません。
売上拡大策として、既存顧客との取引深耕が最も確実な方法と言えます。
新規開拓よりも成約率が高く、コストも抑えられるメリットがあります。
顧客データベースを活用した販売促進策は中小企業でも十分実施可能です。
投資効率を最適化するためには、ROIC(投下資本利益率)やROE(自己資本利益率)などの指標を活用し、効率的な資金配分を行うことが重要です。不要な資産を処分し、成長分野への投資を増やすことで企業価値の向上が見込めるでしょう。
中小企業では、設備投資の効果測定が不十分なケースが多く見られます。投資判断前に費用対効果を厳密に検討し、投資後も効果を定期的に検証する習慣をつけることが大切です。
業務用ソフトウェアやITツールの導入も投資効率を左右します。導入時のコストだけでなく、運用・保守にかかる費用や従業員の習熟期間なども考慮した総合的な判断が求められます。
財務状況を改善し負債を減らすことも企業価値向上の重要な要素です。また、目安として自己資本比率が50%以上の会社は、財務的に良好な状態と見なされることが多く、リスク対応力が高いと評価されます。
負債削減の具体策としては、遊休資産の売却や不採算事業からの撤退などが挙げられます。会社の本業と関係のない資産は思い切って処分し、借入金返済に充てることで財務体質の強化につながります。
資金繰り改善も重要なポイントです。売掛金回収の迅速化や在庫の適正化など、運転資金の効率化を図ることで、借入依存度を下げることができるでしょう。
無形資産の価値を可視化することで、企業の本当の強みを市場に伝えることが可能です。技術力やブランド力、組織文化など目に見えない資産を評価し、積極的に情報開示することが大切です。
中小企業が持つ独自技術やノウハウなどの知的財産は、適切に権利化することで企業価値の向上につながります。
特許取得だけでなく、商標やビジネスモデルの保護なども検討すべきでしょう。従業員の技術や経験といった人的資本も重要な無形資産です。
技術の伝承システムや社内教育制度を整備することで、個人に依存しない組織的な強みを構築できます。
理論だけでなく、実際に企業価値を向上させた企業の取り組みから学ぶことは非常に重要です。製造業からサービス業まで、様々な業種における成功事例を見ていきましょう。
「企業価値向上」といえばトヨタ自動車です。
同社は、今や世界最大の自動車メーカーであり、成功要因として生産面での革新が挙げられます。ジャストインタイム生産方式の導入や徹底したコスト削減など、製造プロセスの改善を計画的に行ってきました。
また、トヨタの生産システムは効率性を高めるだけでなく、品質向上とコスト削減を両立させています。必要なものを必要な時に必要な量だけ生産する仕組みにより、在庫削減と品質向上を実現し、企業価値の大幅な向上を可能にしたのです。
生産革新を通じた収益力の向上は、企業価値向上の重要な要素です。トヨタはカイゼン活動や現場主導の問題解決など、独自の企業文化を構築し、世界中の製造業におけるベンチマークとなっています。経営環境の変化にも柔軟に対応し、環境技術開発など将来を見据えた投資も積極的に行っています。
トヨタ生産方式の根底にある「ムダの排除」という考え方は、中小製造業でも応用可能です。過剰な在庫や不必要な工程、待ち時間などを徹底的に排除することで、生産性向上とコスト削減を同時に実現できるでしょう。
さらに、トヨタは単なる生産技術の改善だけでなく、従業員の創意工夫を促す仕組みづくりにも注力してきました。小集団活動や提案制度など、現場の声を経営に活かす仕組みが企業全体の競争力強化につながったのでしょう。
アパレル企業のユナイテッドアローズは、2007年に大胆な人材戦略を実行しました。
当時在籍していたアルバイトスタッフの約半数をほぼ全員正社員化し、現在もその方針を維持しています。人材への投資は短期的にはコスト増となりますが、同社の場合は顧客満足の向上による売上拡大につながりました。全社一丸となった業務運営が可能となり、従業員のモチベーション向上と定着率アップに寄与しています。
ユナイテッドアローズの成功は、単に雇用形態を変えただけではなく、権限委譲と責任の明確化を同時に進めた点にあります。店舗運営における現場の裁量権を拡大し、経営者意識を持った人材育成に力を入れてきました。
社内教育システムの充実も特徴的です。商品知識だけでなく、ファッション史や素材に関する専門教育、マネジメントスキルの向上など、多角的な人材育成プログラムを展開しています。業界平均を上回る給与水準や福利厚生の充実など、従業員満足度を高める施策も積極的に実施しています。
南海電鉄は、関西国際空港開港を契機に沿線の活性化を積極的に進めてきました。
特に最大の事業拠点であるなんばエリアを国際的なゲートウェイにふさわしい街へと変貌させる取り組みを実施しています。
同社は「人財」を最大の資本として捉え、企業価値創造の源泉は「人」であるという考えのもと「人への投資」を積極的に行っています。従業員のスキルアップ支援や働きやすい環境整備など、人的資本経営の取り組みを進めることで、組織力を向上させています。
環境面での取り組みも注目されます。生物多様性保全を環境課題の重点項目に位置づけ、パークスガーデンを通じてなんばのまちの生物多様性に貢献しています。
鉄道事業という公共性の高いビジネスを基盤としながら、環境・社会・ガバナンスに配慮したサステナビリティ経営に注力することで、長期的な企業価値向上を実現しています。
また、鉄道という既存事業の強みを活かしつつ、不動産開発やサービス事業など多角的な事業展開を行うことで、安定的な収益基盤を構築しています。地域社会との共生を重視し、沿線価値の向上が自社の企業価値向上につながるという良い循環を生み出しています。
地域貢献活動として、沿線での文化イベント開催や子育て支援施設の運営など、鉄道事業の枠を超えた取り組みを実施しています。企業市民としての責任を果たすことが、長期的な企業価値向上につながるという考え方が根付いているのでしょう。
企業価値向上には、財務的側面と非財務的側面の両方からアプローチすることが重要です。収益力強化や投資効率の最適化といった財務面の取り組みに加え、人材育成や環境対応などの非財務的要素も企業価値を左右します。
トヨタ自動車の生産革新、ユナイテッドアローズの人材戦略、南海電鉄の多角的アプローチなど、成功企業に共通するのは長期的視点に立った経営判断です。
企業価値向上は一朝一夕には実現できませんが、継続的な取り組みが持続可能な成長に結びつきます。中小企業においても、自社の強みを活かした企業価値向上策を検討すべきです。
ファクタリングの 達人編集部
自らの経験に基づいた、ファクタリングや与信管理に関する豊富な実績を持ち、これまでに数百社の取引をサポート。
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