回収できない売掛債権は放棄すべき?メリット、注意点について解説

回収できない売掛債権は放棄すべき?メリット、注意点について解説

中小企業や個人事業主が事業運営を行う中で、回収困難な売掛金が発生することは珍しくありません。事業継続において資金繰りは非常に重要ですが、回収見込みのない売掛債権を抱え続けることは、経営を圧迫する要因になるでしょう。今回は、売掛債権の放棄を検討すべきケースやそのメリット・デメリット、具体的な手続き方法について解説します。

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売掛債権の放棄とは?

売掛債権の放棄とは?

売掛債権の放棄は、回収見込みがない債権について、経営判断として意識的に回収をあきらめる行為です。法人税法上では「貸倒損失」として処理することも可能なため、一定の条件を満たせば税務上のメリットもあります。以下にて詳しく解説します。

売掛債権放棄の概要

売掛債権放棄とは、債権者の意思のみで債務を消滅させる手続きであり、債務者の同意は必要としません。

債権者側からの一方的な意思表示によって成立するため、手続きとしては比較的シンプルです。

回収見込みのない売掛金を放置すると、帳簿上は資産として計上され続けるため、不要な課税対象となったり、管理コストが発生したりします。実態を反映していない会計処理は、経営判断を誤らせる原因にもなりかねません。

売掛債権を放棄する方法、流れ

売掛債権を放棄するための第一歩は、取引先への支払い督促です。電話や訪問、書面による督促など、回収努力を尽くした証拠を残すのが重要です。督促を何度か行っても支払いがない事実は、後々の税務処理でも重要な証拠となります。

次に、取引先の財務状況を調査し、実際に支払能力がないことを確認します。帝国データバンクや東京商工リサーチなどの調査会社の情報、官報での破産公告、登記簿謄本などから、客観的に支払能力を判断しましょう。

最終的に債権放棄を決定したら、債権放棄通知書を作成し、内容証明郵便で送付します。内容証明郵便は送付した事実と内容が公的に証明されるため、債権放棄の対外的な証拠として重要です。

売掛債権を放棄した場合の損金処理について

売掛債権を正式に放棄すると、その金額を「貸倒損失」として損金に計上できます。損金算入により課税所得が減少するため、法人税や住民税などが軽減され、キャッシュフローの改善効果も期待できます。

損金算入が認められるためには、税務上の貸倒れ要件を満たなければなりません。

法律上の貸倒れ(破産など法的手続きがある場合)、事実上の貸倒れ(債務者の資産状況から回収不能と判断できる場合)、形式上の貸倒れ(少額の売掛金で回収努力に費用対効果がない場合)のいずれかに該当することが求められます。

損金処理の際には、債権放棄の証拠書類を適切に保管しておくのが不可欠です。内容証明郵便の控え、督促の記録、取引先の財務状況調査資料など、債権放棄の判断に至った経緯がわかる資料は、税務調査の際に必要となるため、最低でも7年間は保管しておきましょう。

売掛債権放棄のメリット、デメリット

売掛債権放棄のメリット、デメリット

売掛債権を放棄することにはさまざまなメリットとデメリットが存在します。詳しく解説しましょう。

売掛債権放棄のメリット

回収不能な債権を損金処理することで、課税所得を減らし、法人税の負担を軽減できる点が最大のメリットです。業績が好調で税負担が大きい場合、適切な時期に債権放棄を行うことで税務コストを抑えられます。

また、帳簿上の資産や株価の適正化にもつながります。実態を反映していない資産は会社の価値を正確に表しませんが、不良債権を整理することで財務状況をより実態に近づけられるでしょう。事業承継を控えている場合は、会社の価値が適正化されることで相続税対策にもなるかもしれません。

売掛債権放棄のデメリット

放棄した債権は将来的に回収できなくなるため、資金回収のチャンスを完全に失うことになります。取引先の経営状況が好転した場合でも、一度放棄した債権を再請求することはできません。債権放棄は不可逆的な決断である点に留意しましょう。

また、債権放棄の金額が大きい場合、債権者自身の財務状況に悪影響を及ぼす可能性もあります。

特に単年度で多額の貸倒損失を計上すると、当期の業績を大きく下げることになるため、財務計画を立てた上で実行すべきです。

金融機関からの融資条件に影響するかもしれません。

売掛債権放棄による損金処理のポイント

損金処理が認められるためには、債権放棄の手続きが適切に行われていることが前提となります。単に債権放棄を決めただけでは不十分で、督促の履歴や相手の支払能力調査など、放棄に至るまでの経緯を客観的に証明できる資料が必要です。

早期に放棄しすぎると、税務上「寄付金」と判断され、損金計上が認められない場合も。取引停止から十分な期間が経過していない状態での放棄は、課税当局から否認されるリスクがあるため、放棄のタイミングは慎重に判断しましょう。

売掛債権を放棄する場合の注意点

売掛債権を放棄する場合の注意点

売掛債権の放棄は経営判断として重要であると同時に、税務上のリスクも伴います。放棄を検討する際の、重要なポイントを解説しましょう。

売掛債権を放棄する際に確認すべきこと

本当に回収不能かどうか、取引先の財務状況や支払能力を十分に調査するのがまず重要です。前述のとおり、安易に放棄すると税務上否認されるリスクがあるため、客観的な事実に基づいて判断する必要があります。信用調査会社のレポートや登記簿謄本など、第三者の情報を活用するとよいでしょう。

また、支払い督促や経営状態調査などの行動履歴を残し、債権放棄の正当性を証明できるようにすることも大切です。電話での督促記録、督促状の控え、訪問記録など、回収努力を尽くした証拠は後々の税務調査で重要な役割を果たします。

債権放棄通知書は必ず内容証明郵便で送付し、証拠書類を自社用・相手方用・郵便局控えの3通を作成しましょう。通知書には債権の詳細や金額を明記し、放棄する旨を明確に伝える必要があります。法的な証拠として残るため、文面の作成には専門家のアドバイスを受けるのがおすすめです。

債権放棄のタイミングと税務上の要件

取引停止から1年以上経過し、かつ債務超過が3年以上続く場合は、税務上放棄が認められるケースが多いです。ただし、明確な法定基準があるわけではなく、個々のケースによって判断されるため、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。

法的手続き(破産・民事再生など)が行われている場合は、比較的簡単に回収不能の立証ができます。官報に破産手続きの開始が掲載されているなど、公的な事実があれば、債権放棄の正当性を証明しやすくなるでしょう。

また、債権放棄のタイミングや要件を満たしていないと、損金処理が否認されるかもしれません。

特に関連会社間の債権放棄や、取引停止直後の放棄などは、税務調査の際に否認されやすい傾向があるため注意しましょう。

否認された場合は追徴課税など大きなペナルティを負う可能性があります。

専門家への相談の重要性

債権放棄の判断や手続きには、税理士や会計士など専門家からのアドバイスが不可欠です。税法は複雑で解釈が難しい部分もあるため、自社だけで判断せず、専門家の意見を仰ぐのをおすすめします。

また、税務調査やトラブルを避けるため、事前に専門家に相談し、適切な証拠や書類を整備するのも重要です。

特に債権放棄の処理は税務調査でチェックされやすい項目であるため、手続きの各段階で必要な証拠を残しておくとよいでしょう。

さらに、複雑なケースや金額が大きい場合、特殊な状況や高額な債権の放棄は、税務上のリスクも高くなるため、専門家のサポートを受けながら慎重に進めることをおすすめします。税理士や弁護士など、専門分野の異なる複数の専門家に相談してもよいでしょう。

まとめ

売掛債権の放棄は、回収見込みのない債権を適切に処理し、財務の健全性を保つための重要な経営判断です。税務上のメリットが大きい一方で、放棄のタイミングや手続きが不適切だと否認されるリスクがあります。

債権放棄を検討する場合は、取引先の支払能力を十分に調査し、回収努力の証拠を残しながら、専門家のアドバイスを仰ぐのが重要です。適切な手続きを踏むことが、税負担の軽減や財務体質の改善につながり、健全な経営の一助になるでしょう。

この記事を書いた人

ファクタリングの 達人編集部のアバター

ファクタリングの 達人編集部

自らの経験に基づいた、ファクタリングや与信管理に関する豊富な実績を持ち、これまでに数百社の取引をサポート。
当メディアでは企業の資金繰りに役立つ情報発信を行うとともに、中小企業向けにファクタリングのアドバイザリーサービスも提供しています。

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