資金繰り分岐点とは?計算式、損益分岐点との違いも解説

資金繰り分岐点とは?計算式、損益分岐点との違いも解説

中小企業や個人事業主が、経営を継続するうえで欠かせないのが健全な資金繰りです。黒字経営でも、資金不足に陥り経営危機を招くケースは珍しくありません。資金繰り分岐点を理解し、必要な売上目標を把握することで、こうしたリスクを回避できます。本記事では資金繰り分岐点の概念から計算方法、損益分岐点との違いまで詳しく解説します。

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資金繰り分岐点とは?

資金繰り分岐点とは?

資金繰りに悩む中小企業経営者にとって、具体的な目標数値があると安心です。資金繰り分岐点は、日々の経営判断や資金調達計画において重要な指標となります。単なる黒字だけでなく、実際の資金の流れに着目した経営指標として注目されているのです。

資金繰り分岐点の概要

資金繰り分岐点とは、企業が資金ショートせずに事業を継続するために必要な売上高を示す指標です。

利益計算上は黒字であっても、借入金返済や設備投資、納税などのキャッシュアウトが多い場合、実際の手元資金が不足するリスクがあります。

資金繰り分岐点を下回る売上状態が続くと、たとえ会計上は利益が出ていても、実際の資金が枯渇し、経営危機に直面する可能性が高まります。経営者が事業継続に必要な現実的な売上目標を設定するために、欠かせない指標といえるでしょう。

管理会計の観点からも、資金繰り分岐点を把握することで、経営者は実際に必要な売上高や資金調達額を明確にできます。特に季節変動が大きい業種や、仕入れから売上計上までの期間が長い業態では、この指標が経営の生命線となることもあります。

資金繰り分岐点を求める計算式

資金繰り分岐点の計算式は「(固定費+(借入金返済額等-減価償却費)÷0.7)/(1-変動費率)」が一般的です。

損益計算書上の数値だけでなく、借入金返済や設備投資など実際のキャッシュフローに影響する要素を組み込んでいる点が特徴的です。

なお、「÷0.7」は、税引き後キャッシュフローを想定した簡易式であり、実効税率に応じた調整が必要となる場合もあります。

また、計算式において、固定費や借入返済、納税などのキャッシュアウト項目を加味し、減価償却費はキャッシュアウトを伴わないため控除します。納税に関しては、法人税等の実際の支払い時期を考慮した金額を加算することがポイントです。

変動費率は、売上に連動して増減する費用の割合で、資金繰り分岐点の計算において重要な要素です。変動費率が高いビジネスモデルでは、売上増加に比例して変動費も増えるため、資金繰り分岐点が高くなる傾向があります。逆に、変動費率が低い事業構造では、一定の売上を超えると効率的に利益が積み上がりやすくなるのが一般的です。

資金繰り分岐点の重要性

資金繰り分岐点を下回ると、黒字経営でも資金不足(黒字倒産)のリスクが高まります。

会計上の利益と実際のキャッシュフローにはズレがあるため、特に成長局面の企業や季節変動の大きい業種では、資金繰り分岐点を常に意識した経営が求められます。

資金繰り分岐点を把握しておくことで、必要な資金調達やコスト削減の目安が立てやすくなるでしょう。たとえば、来期の設備投資や新規採用を検討する際、資金繰り分岐点を基準に実現可能な計画が立てられます。急な受注増や季節変動にも、事前に資金計画を練ることができるでしょう。

また、経営改善や新規事業モデル検討時にも、資金繰り分岐点のシミュレーションが役立ちます。複数のシナリオを想定し、それぞれの場合における資金繰り分岐点を算出することで、リスクの少ない事業計画が策定できるでしょう。特に借入金が多い企業では、返済計画と連動させた分析が経営判断の質を高めることにつながります。

資金繰り分岐点と損益分岐点の違い

資金繰り分岐点と損益分岐点の違い

経営分析において、資金繰り分岐点と損益分岐点はどちらも重要な指標です。両者の違いを理解し、適切に活用することで、より堅実な経営判断が可能になるでしょう。

資金繰り分岐点と損益分岐点の定義と比較

損益分岐点は「利益がゼロになる売上高」、資金繰り分岐点は「資金収支がゼロになる売上高」を指します。

両者は似た概念ながら、着目するポイントが大きく異なります。この違いを理解することが、健全な経営を維持するうえで非常に重要です。

どういうことかというと、損益分岐点は会計上の利益に着目し、資金繰り分岐点はキャッシュの流れ(キャッシュフロー)を重視します。損益計算書上では利益が出ていても、実際の資金が不足するケースは珍しくありません。売掛金の回収遅れや在庫の増加など、会計上の利益とキャッシュフローにはズレが生じるためです。

ただし、キャッシュイン・キャッシュアウトのタイミングのズレが小さい業種では、損益分岐点と資金繰り分岐点がほぼ一致するケースもあります。

また、借入金返済や納税など、損益計算書に現れないキャッシュアウトを考慮するのが資金繰り分岐点の特徴です。特に設備投資を行った企業では、減価償却費は会計上の費用として計上されますが、実際の資金流出は投資タイミングのみです。

逆に借入金返済は毎月のキャッシュアウトとなりますが、会計上の費用とはなりません。これらの違いを踏まえた経営判断が求められるでしょう。

損益分岐点の計算方法と特徴

損益分岐点は「固定費÷限界利益率(1-変動費÷売上高)」で求めます。

損益分岐点売上高を計算することで、どの程度の売上があれば赤字にならないかが明らかになるのです。経営の最低ラインを示す指標として、広く活用されています。

損益分岐点を超える売上で黒字、下回ると赤字になります。固定費が高い事業構造では損益分岐点も高くなるため、売上変動に対して利益が大きく変化しやすいです。逆に変動費率が低いビジネスモデルでは、損益分岐点を超えた後の利益率が高くなる傾向があります。

ただし、損益分岐点は、経営の安全性や目標売上の設定に役立ちますが、資金繰りリスクまでは把握できません。損益分岐点を超える売上があっても、実際のキャッシュフローがマイナスになるケースは少なくないのです。特に成長企業や事業拡大期には、利益と資金繰りの両面から経営状況を分析することが重要です。

資金繰り分岐点を重視すべきケース

借入金が多い企業や納税負担が大きい場合、損益分岐点だけでは資金ショートのリスクを把握できません。設備投資の直後や事業拡大期は、特に注意が必要です。資金繰り分岐点を定期的に算出し、余裕を持った売上目標を設定することが望ましいでしょう。

また、黒字経営でも資金繰り分岐点を下回ると資金不足となり、経営破綻のリスクが高まります。いわゆる「黒字倒産」です。

特に売掛金の回収サイクルが長い業種や、季節変動の大きい事業では、短期的な資金不足に陥りやすいため、資金繰り分岐点を意識した経営を心がけるとよいでしょう。

なお、経営判断や資金調達計画を立てる際は、損益分岐点と資金繰り分岐点の両方を確認する必要があります。たとえば、新規設備投資を検討する場合、損益分岐点の観点からは長期的に利益が出る判断でも、資金繰り分岐点の視点では短期的な資金不足を招くリスクがあります。両指標のバランスを見ながら、適切な投資時期、資金調達方法を検討しましょう。

まとめ

資金繰り分岐点は、企業が資金ショートを避けるために必要な売上高を示す重要な経営指標です。会計上の利益だけでなく、実際のキャッシュフローを重視している点が特徴的です。損益分岐点が「利益がゼロになる売上高」を示すのに対し、資金繰り分岐点は「資金収支がゼロになる売上高」を表します。

特に借入金返済や設備投資を行う中小企業にとって、資金繰り分岐点の把握は経営の生命線といえるでしょう。定期的に資金繰り分岐点を計算し、必要な売上目標を設定することが、「黒字倒産」のリスクを回避し、持続可能な経営につながるでしょう。

この記事を書いた人

ファクタリングの 達人編集部のアバター

ファクタリングの 達人編集部

自らの経験に基づいた、ファクタリングや与信管理に関する豊富な実績を持ち、これまでに数百社の取引をサポート。
当メディアでは企業の資金繰りに役立つ情報発信を行うとともに、中小企業向けにファクタリングのアドバイザリーサービスも提供しています。

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