売掛金の未回収が企業に与える影響とは?回収する方法についても解説

売掛金の未回収が企業に与える影響とは?回収する方法についても解説

売掛金の未回収問題は、中小企業や個人事業主にとって大きな経営課題です。

商品やサービスを提供したにもかかわらず、代金が入金されないとなれば、企業活動全体に悪影響が及ぶでしょう。そこで今回は、経営者が把握すべき未回収の影響と回収方法、予防策について解説します。

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売掛金の未回収が与える影響

売掛金の未回収が与える影響

売掛金が回収できない状況は、一時的な資金不足にとどまらず、企業経営の根幹を揺るがす問題へと発展する可能性があります。短期的な運転資金の不足から、長期的な信用低下まで、様々な側面で悪影響が生じるおそれがあるのです。

キャッシュフローの悪化と資金繰りへの影響

売掛金が未回収になると、予定していた入金が途絶えるため、キャッシュフローが悪化します。それはつまり、運転資金が不足し始めるということです。

従業員への給与支払いや仕入先への支払いなど、日常的な資金需要に対応できなくなるリスクが高まります。特に中小企業では資金的な余裕が少ないため、少額の未回収でも資金繰りへの影響は大きいと言えるでしょう。

資金繰りの悪化が続くと、いずれ手形の不渡りや支払い遅延が発生し、最悪の場合は倒産にまでつながる恐れがあります。キャッシュフロー管理は企業が存続するために欠かせない問題であり、売掛金の未回収はその基盤を揺るがす重大な問題です。

財務諸表への悪影響と金融機関からの評価低下

長期間回収できない売掛金は、最終的に貸倒損失として計上せざるを得なくなります。損益計算書上で損失が発生すると、当期純利益が減少し、企業の財務状況は悪化するでしょう。

貸借対照表においても、資産価値の低下や純資産の減少という形で悪影響が表れます。財務諸表の悪化は、企業の信用力低下に直結し、金融機関による評価も厳しくなるでしょう。

また、銀行からの融資審査では財務諸表が重要な判断材料となるため、未回収売掛金の増加は新規融資の障壁にもなり得ます。さらには、既存の融資条件見直しの際にも不利に働き、金利引き上げや担保要求など、厳しい条件が課される可能性もあるでしょう。

信用低下と取引先との関係悪化

売掛金の未回収が続くと、自社の支払い能力も低下し、他の取引先への支払い遅延が連鎖的に発生することがあります。一度支払い遅延が発生すると、取引先からの信用は急速に失われていくでしょう。

信用情報機関に支払い遅延情報が登録されると、業界内での評判が下がり、新規取引の開拓も難しくなります。

既存の取引先からは現金払いを要求されるなど、取引条件が厳しくなることも視野に入れなければなりません。

信用力の低下は目に見えない企業価値の毀損であり、長期的な事業拡大や成長の妨げとなります。一度失った信用を取り戻すには多くの時間と労力を要するため、未回収問題は早期解決が望ましいと言えます。

売掛金が未回収の場合に回収する方法

売掛金が未回収の場合に回収する方法

売掛金が未回収となった場合、状況別に対応策を講じなければなりません。ここでは、初期段階での丁寧な対応から、最終的な法的手段までを解説します。

取引先への連絡と請求書の再確認

未入金が発生した場合、まずは取引先に電話やメールで連絡を取り、支払い状況を確認します。多くの場合、単純な手違いや請求書の不達、担当者の交代などが原因です。

また、請求書の内容に誤りがないか再確認することも重要。金額の間違いや振込先の誤記、請求日の不備など、自社側のミスが原因で入金が遅れているケースも少なくありません。

コミュニケーションを円滑に進めることで、相手企業の支払い予定や未払いの理由が明らかになり、適切な対応策を講じることが可能となります。

初期段階での丁寧な確認作業は、その後の売掛金回収をスムーズにする基盤となるでしょう。

催促・分割払い・相殺などの交渉

単純な確認で解決しない場合は、支払いの催促を行います。電話による催促から始め、改善が見られない場合は書面による催促へと段階を進めるのが一般的です。

相手企業の資金繰りが厳しい場合は、分割払いの提案も有効な選択肢となります。一括での支払いが難しくても、少額からの分割なら対応可能なケースは多くあるでしょう。

また、双方に債権債務関係がある場合は、債権の相殺を提案することで円満な解決が図れることも。交渉の長期化が予想される場合、「債務承認書」の作成により債務の存在を明確化し、時効の中断を図ることも重要です。

法的手続きによる回収

交渉による解決が難しい場合、法的手続きを検討する段階となります。まずは内容証明郵便で最終催告を行い、それでも支払いがない場合は裁判所を通じた手続きへと移行しましょう。

少額訴訟や支払督促など、比較的簡易な手続きから始めることが多いですが、未回収の金額によっては通常訴訟の提起や仮差押えなどの保全処分から行うこともあります。

ただし、法的手続きは費用や時間がかかるため、回収可能額を天秤にかけた上で、費用対効果を検討する必要があります。

弁護士や司法書士などの専門家に相談し、最適な対応策を選択することが望ましいでしょう。

売掛金の未回収を回避するための対策

売掛金の未回収を回避するための対策

未回収問題は発生してからの対応より、予防策を講じることが効果的です。信用調査による事前対策から、日常的な管理体制の整備まで、複合的な予防策が自社を守ってくれます。

与信管理と取引先の信用調査

新規取引を開始する前に、取引先の信用調査を徹底することが未回収リスクを大幅に軽減します。

商業登記簿の確認や信用調査会社のレポート活用、業界内での評判収集などが基本的な調査方法です。

調査結果に基づいて取引先ごとの与信枠を設定し、信用力に応じた取引金額の上限を定めることが重要です。与信枠を超える取引要請があった場合は、前払いや担保提供など条件の変更を検討します。

明らかに支払い能力に不安がある企業との取引は、思い切って見送る判断も必要です。目先の売上拡大より、確実な入金が見込める取引先の選別が経営の安定につながります。

回収状況の管理と早期対応

売掛金の発生から回収までを一元管理する体制を構築し、常に回収状況を把握することが重要です。顧客ごとの支払い履歴や遅延傾向を記録し、リスクの高い取引先を識別します。

支払期日を過ぎた売掛金については、遅延日数に応じた対応手順を事前に定めておくことで、担当者による判断のブレを防ぎます。

一般的には、遅延発生から数日以内に電話連絡、1週間程度で書面催促といった段階的対応が効果的です。

早期の対応は回収率を大幅に高めるため、遅延初期段階での積極的な働きかけが重要となります。放置すればするほど、取引先に「根拠のない安心感」を与えることになり、回収確率が低下します。迅速な行動が未回収問題を先延ばしさせないためには重要です。

契約書・請求書の整備と回収条件の明確化

取引開始時には必ず書面による契約を交わし、支払条件や遅延時の対応、遅延損害金などの条件を明確にしておくことが重要です。契約書は法的紛争時の重要な証拠となります。

請求書には支払期限を明記し、必要に応じて期限厳守の注意書きを加えることが支払意識を高めます。請求書の送付記録を残すことも、後のトラブル防止に役立つでしょう。

支払い遅延が発生した場合の対応ルールを事前に明確化しておくことで、感情的な対立を避け、ビジネスライクな交渉が可能となります。

明確な契約関係の構築は、未回収リスクの低減に大きく貢献するでしょう。

売掛金の時効

売掛金の時効

売掛金には消滅時効があり、一定期間を経過すると法的な請求権が失われます。時効制度の正確な理解と適切な対応は、債権管理において極めて重要です。

売掛金の消滅時効期間について

2020年4月の民法改正により、売掛金を含む債権の消滅時効は原則として5年に統一されました。

改正前は商取引における売掛金の時効は5年、一般の債権は10年とされていました。

時効期間は通常、取引が発生した日や支払期日から起算されます。時効期間が経過し、債務者が時効を援用することで、法的な請求権が消滅してしまうのです。

時効による請求権の消滅は、債務者側が時効の援用(時効による消滅の主張)をしない限り、法的には存続します。しかし実務上は、時効期間経過後の回収は極めて困難となるため、時効完成前の対応が不可欠です。

時効の中断(更新)方法

時効の進行を止め、新たに時効期間をリセットする「時効の更新」は、債権回収における重要な手段です。主な更新方法としては、裁判上の請求債務の承認があります。

裁判上の請求とは、訴訟提起や支払督促、調停申立てなどの法的手続きです。債務の承認とは、債務者が債務の存在を認める行為で、一部弁済や債務承認書の作成などが該当します。

時効の更新が行われると、その時点から再び5年間(裁判などの場合は10年)の時効期間がスタートします。長期化する回収問題では、定期的な時効更新措置が必要となる場合もあるでしょう。

時効の完成猶予(停止)方法

「時効の完成猶予」とは、一定期間、時効の完成を先延ばしにする制度です。主な猶予事由としては、仮差押えや仮処分、内容証明郵便による履行の催告などがあります。

催告による猶予効果は6か月間と限定的であり、その間に裁判上の請求など更新効果のある手続きを行わなければ、猶予期間経過後に時効が完成します。仮差押えなどの保全処分も、本訴の提起までの一時的な猶予措置です。

完成猶予は時効をリセットするものではなく、あくまで一時的に時効の完成を先延ばしにするだけの措置です。

長期的な債権保全には更新効果のある措置が必要となるため、両者の違いを理解した対応が求められます。

まとめ

売掛金の未回収問題は、企業経営に多面的な悪影響を及ぼします。キャッシュフローの悪化から信用低下まで、連鎖的な問題を引き起こす可能性があるため、予防と早期対応が極めて重要です。

未回収が発生した場合は、まず丁寧な確認と交渉から始め、状況に応じて法的手段も検討します。予防策としては、取引前の信用調査や契約関係の明確化、日常的な回収管理体制の構築が効果的です。時効制度を理解し、適切な時効対策を講じることも重要です。

この記事を書いた人

ファクタリングの 達人編集部のアバター

ファクタリングの 達人編集部

自らの経験に基づいた、ファクタリングや与信管理に関する豊富な実績を持ち、これまでに数百社の取引をサポート。
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