現在掲載中の企業73件
中小企業や個人事業主が抱える売掛金を早期資金化するファクタリング。利用により資金繰りが改善する一方で、会計処理上の影響も考慮すべき点があります。
特に貸倒引当金の取り扱いは財務諸表に大きく影響する要素となります。ファクタリング利用時の貸倒引当金はどのように処理すべきか、会計上のポイントを解説しましょう。
企業活動において生じる売掛金や受取手形には、取引先の経営状況悪化などにより回収不能となるリスクが常に存在します。貸倒引当金は将来発生する可能性のある貸倒損失に備えるための会計上の仕組みといえるでしょう。
貸倒引当金は、将来の貸倒れに備えて計上する会計上の引当金です。これは、将来的に発生するかもしれない、特定の費用や損失に備えて準備しておく金銭的な負債であり、企業の財務健全性を維持するために重要な役割を果たします。
企業会計においては、発生主義の原則に基づき、実際に債権が回収不能になる前に、そのリスクを合理的に見積もり、適正な額を計上しなければなりません。これにより、突発的な損失発生による財務の急激な悪化を防ぎ、経営の安定性を確保することが可能となります。
貸倒引当金の対象となるのは、売掛金や受取手形、貸付金など、回収不能となる可能性のある債権です。これらの債権に対して適切に引当金を設定することで、財務諸表における資産の評価をより正確に行うことができます。
債権の全額が必ずしも回収できるわけではないという現実を考慮し、企業の財務状況を適切に反映させるためにも、貸倒引当金の計上は不可欠です。
この制度は、企業の財務状態をより適切に表示し、期間損益計算の適正化を図ることを目的としています。貸倒引当金を適正に計上することで、企業の財務報告の信頼性が高まり、投資家や取引先に対する透明性の向上にもつながります。財務情報の正確性が保たれることで、経営判断の質も向上し、長期的な企業価値の維持・向上にも貢献してくれるでしょう。
売掛金、受取手形、貸付金など、将来回収不能となる可能性のある債権が対象となります。企業が保有するさまざまな債権は、回収リスクの度合いによって区分されます。
一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等の3つに分類されるのが一般的です。
一般債権は通常の営業活動から発生する債権で、貸倒懸念債権は回収に懸念がある債権、破産更生債権等は法的手続きが開始されているなど回収可能性が極めて低い債権を指します。
対象債権の金額や回収可能性に応じて、適切な引当金額を設定する必要があるでしょう。一般債権に対しては過去の貸倒実績率を用い、貸倒懸念債権や破産更生債権等に対してはより厳格な基準で引当金を計上するのが通常となっています。
メリットは、将来の損失に備えることで財務の健全性を保つことができる点が挙げられるでしょう。貸倒引当金を適切に計上しておくことで、実際に貸倒れが発生した際の急激な損失計上を避けられるようになります。毎期継続的に引当金を積み立てることで、業績の安定性を確保できるようになるのです。
デメリットは、過大な引当金計上により利益が圧縮される可能性がある点が挙げられるでしょう。貸倒引当金の繰入額は費用として計上されるため、短期的には利益減少要因となるのです。必要以上に保守的な見積もりを行うと、実態よりも業績が悪く見えるかもしれません。
適切な貸倒引当金の設定は、企業の信用力向上にもつながるものです。財務諸表上のリスク管理姿勢が明確になり、金融機関や取引先から財務健全性を評価される要素となります。引当金の計上は、税務上の取扱いとの兼ね合いも重要なため、注意しましょう。
ファクタリングは、売掛債権を第三者に譲渡することで早期に資金化する手法となります。会計処理において、貸倒引当金とどのような関係になるのか見ていきましょう。
ファクタリングにより債権を譲渡した場合、その債権に対する貸倒引当金は不要となるでしょう。債権自体が企業の資産から除外されるため、その債権に対応する引当金も同時に取り崩す必要が生じるのです。
債権譲渡時に、対応する貸倒引当金は取り崩す処理を行うことになります。具体的には、貸倒引当金勘定を借方に、貸倒引当金戻入益を貸方に計上するわけです。
債権譲渡により、対象債権に関する貸倒リスクがなくなったことを会計上反映させる処理といえるでしょう。
ファクタリング後は、債権の回収リスクがファクタリング会社に移転することが理由です。ノンリコース型(債権が回収不能となった場合でも、譲渡元に遡及しない方式)のファクタリングであれば、債権に関するすべてのリスクと経済価値が移転したと考えられるでしょう。
貸倒引当金の取り崩しにより、一時的に利益が増加する可能性が生じます。例えば、1,000万円の売掛金に対して50万円の貸倒引当金を計上している場合、ファクタリングによって債権を譲渡すると貸倒引当金戻入益として50万円が利益計上されることになります。
売掛金1,000万円に対する手数料が50万円の場合、会計処理は以下のようになるでしょう。
借方:現金預金950万円、ファクタリング手数料50万円
貸方:売掛金1,000万円
加えて貸倒引当金の取り崩し処理が行われます。
借方:貸倒引当金50万円
貸方:貸倒引当金戻入益50万円
ファクタリング手数料は、通常、販売費及び一般管理費として計上されるものです。手数料は債権譲渡の対価として支払うもので、売上原価ではなく一般管理費の性質を持ちます。決算書においてファクタリング利用の実態が明確になるよう、独立した科目として表示することも検討するとよいでしょう。
ファクタリングの種類(債権譲渡型・債権担保型)により会計処理が異なる場合があります。債権譲渡型は債権の所有権がファクタリング会社に完全に移転するのに対し、債権担保型は融資の担保として債権を差し入れる方式です。債権担保型の場合、貸倒引当金を維持する必要があるでしょう。
遡及権付きファクタリングの場合、貸倒リスクが残るため引当金の完全取り崩しは慎重に判断すべきです。遡及権(リコース)があれば、債権が回収不能となった場合に譲渡元が買戻しを求められるため、リスクの完全移転とは言えません。会計上は債権譲渡ではなく、担保付借り入れとして処理する場合もあります。
ファクタリング利用と貸倒引当金の処理については、監査法人や税理士と相談することがおすすめです。企業の規模や業種、取引の実態によって最適な会計処理は異なる上、特に金額的重要性が高い場合や、定期的にファクタリングを利用する場合は、専門家の意見を仰ぐことで適切な会計処理を確保できるでしょう。
ファクタリングの利用は、貸倒引当金の会計処理に大きな影響を与えます。債権譲渡型のファクタリングでは、債権と共に貸倒リスクも移転するため、対応する貸倒引当金は取り崩すのが原則です。一方、遡及権付きやリスクが完全に移転しない形態の場合は、引当金の処理に慎重な判断が必要となります。
貸倒引当金の取り崩しは一時的な利益を生み出す効果がある点も認識しておくべきでしょう。会計処理の選択によっては決算期の業績に影響を与える可能性があるため、計画的な活用が望ましいといえます。
企業の財務状況を適切に表示するため、ファクタリングの実態に即した会計処理を行うことが重要です。継続的にファクタリングを利用する企業は、一貫した会計方針を定めておくことで、財務諸表の比較可能性を確保できるでしょう。専門家と相談しながら、正確な財務報告を心がけましょう。
ファクタリングの 達人編集部
自らの経験に基づいた、ファクタリングや与信管理に関する豊富な実績を持ち、これまでに数百社の取引をサポート。
当メディアでは企業の資金繰りに役立つ情報発信を行うとともに、中小企業向けにファクタリングのアドバイザリーサービスも提供しています。