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中小企業や個人事業主が経営を行う上で、経営の安定性と成長性を両立させるため「無借金経営」と「実質無借金経営」という2つの考え方が注目されています。本記事では両者の特徴や違い、メリット・デメリットについて解説します。
無借金経営は多くの経営者が憧れる経営状態で、金融機関からの借入に頼らない自立した財務体質を実現した状態です。まずは基本的な概念を理解し、メリットとデメリットを把握することで、自社の経営戦略に活かせるような知識をつけましょう。
無借金経営とは、金融機関などからの借入金がない事業者・企業の経営状況のことです。
貸借対照表(BS)上で、流動負債に計上される「短期借入金」や固定負債に計上される「長期借入金」が一切存在しない企業の経営状態になります。
日々の事業活動に必要な資金を、全て自己資金でまかなっているのです。企業規模を問わず実現可能で、特に中小企業においては経営の安定性を示す指標として評価されています。
無借金経営の最大のメリットは、借入金の返済義務がなく、利息の支払いが発生しないことです。毎月の返済額や利息分の支出がないため、その分を事業投資や内部留保に回せます。経済情勢が悪化しても返済に追われることがないため、経営の安定性が高まるでしょう。
決算書の見栄えが良くなるというメリットもあります。金融機関とのやり取りが必要以上にないため、資金管理の負担が軽減できる点も見逃せません。
有利子負債がない健全な財務状態は、取引先や金融機関からの信頼獲得につながります。経営判断における自由度も高まり、長期的な視点での意思決定が可能になるでしょう。
無借金経営を続けると、銀行など金融機関から融資を受けにくいデメリットが生じます。
借入れ履歴がないため、いざ融資が必要になった際、金融機関から信用力の低い新規顧客と扱われるケースが多いです。返済実績がないと、与信枠の設定が厳しくなる傾向があります。
また、事業規模を拡大しにくいという課題も。大型の設備投資や事業拡大の機会があっても、手元資金だけでは対応できず、ビジネスチャンスを逃してしまう可能性があるのです。予期せぬ資金需要が発生した場合に対応が遅れ、資金ショートのリスクも潜在しています。
実質無借金経営は、無借金経営の利点を活かしながらも、その欠点を補う経営手法として注目されています。ここでは実質無借金経営について詳しく見ていきましょう。
実質無借金経営とは、金融機関から資金を借り入れているものの、借入金以上の資金を保有しており、借入金をいつでも返済できる経営状態を指します。
手持ちの資金が「借入金以上の額」であることが実質無借金経営の条件です。返済したら手持ちの資金がゼロになるような状態は実質無借金経営には該当しません。
一般的に「現預金残高 > 借入金残高」という関係が成立している状態で、借入金があっても実質的な負債はゼロ以下と考えられます。
実質無借金経営の大きなメリットは、借金を返済しても手持ちの資金を確保できるため、倒産のリスクを軽減できることです。
融資を受けながら経営するため、事業に投資する資金を確保でき、会社を成長させやすいという利点があります。資金繰りが安定し、緊急時の対応力も高まるでしょう。
設備投資や人材採用など、ビジネスチャンスを積極的に活かせる環境が整います。金融機関との取引実績を積み重ね、将来的な融資条件が有利になる効果も期待できるのです。
実質無借金経営では金利が高いと支出額が大きくなり、負担も大きくなるというデメリットがあります。借金が多くなるほど、心理的な重圧がかかるという側面も見逃せません。
無借金経営では決算書の見た目がよいのに対し、実質無借金経営では負債を抱えている状態であるため、決算書の見た目が悪くなり自己資本比率も下がります。また、借入金に依存しすぎると、経営が安易になり、コスト管理が甘くなるリスクもあるでしょう。
無借金経営は安全性を重視した堅実な経営手法である一方、実質無借金経営は成長と安定のバランスを取った柔軟な経営戦略といえます。両者の具体的な違いについて、借入金の取扱いや財務状況、リスク対応力の観点から比較していきましょう。
項目 | 無借金経営 | 実質無借金経営 |
---|---|---|
借入金の有無 | 借入金が全くない | 借入金はあるが、すぐに返済できるだけの現金・預金などの流動資産がある |
資金調達 | 自己資金、株式発行など | 借入金、自己資金、株式発行など |
財務状況 | 非常に健全 | 健全だが、借入金がある分、無借金経営には劣る |
緊急時の対応 | 自己資金のみで対応、資金調達に時間がかかる | 借入金、自己資金の両方で対応可能、資金調達の選択肢が多い |
金融機関との関係 | 希薄 | 良好な関係を維持している |
無借金経営は有利子負債が一切ないのに対し、実質無借金経営は借入金があるがいつでも返済できる状態です。
無借金経営では返済負担がないのに対し、実質無借金経営では返済義務を負います。毎月の返済額を計画的に管理し、キャッシュフロー計画に組み込むのが重要です。
無借金経営では利子の支払いがありませんが、実質無借金経営では金利を「会社を守る保険料」と考える発想があります。少額の金利負担と引き換えに、金融機関との関係構築や緊急時の融資枠確保というメリットが得られるでしょう。
前述したとおり、無借金経営では決算書の見た目がよいのに対し、実質無借金経営では負債を抱えている状態であるため、決算書の見た目が悪くなります。
無借金経営では自己資本比率が高くなるため財務の健全性を示す指標が良好です。一方、実質無借金経営では自己資本比率が相対的に低くなる傾向があります。
実質無借金経営では借入金という負債項目があるため、各種財務比率が低下する傾向にあります。財務諸表上の数値だけを見る取引先や金融機関からは、無借金経営の方が高い評価を受けやすいでしょう。
無借金経営は借入がないため安定しているように見えますが、資金不足時の対応力に欠け、黒字倒産のリスクがあります。実質無借金経営は融資を活用することで、予期せぬ事態に見舞われても会社を立て直す時間を作ることが可能です。
無借金経営では事業拡大の機会を逃す可能性がありますが、実質無借金経営では借入金を活用して設備投資や社員教育に使い、会社を成長させることができます。
実質無借金経営は「攻め」と「守り」のバランスが取れた経営スタイルで、環境変化に対する適応力が高い点が特徴的です。
実質無借金経営を実現するためには、計画的な資金管理と金融機関との関係構築が必要です。ここでは実質無借金経営を実現・維持するためのポイントについて解説します。
実質無借金経営を実現するためには、安定的な利益の確保が必要です。利益は資金を増やすためだけでなく、融資を有利な条件で受けるためにも重要です。
過度な節税は諸刃の剣であり、節税以上に大きな支出が伴っていることを忘れてはなりません。会社の経営状態を正確に把握し、家賃や光熱費、通信費や人件費、消耗品などの必要経費を把握し、運転資金を確保することを目標にする必要があります。
借入金を「運転資金」と「設備その他資金」に色分けし、それぞれの必要額を明確にして適切な融資提案を受けることが重要です。
「返せる運転資金はすぐに返す」「長く借りるべき設備資金は適切な期間で借りる」「必要になったらいつでも借りられるように取引金融機関に話しておく」という環境作りが大切です。
借入金の総額が現預金を超えないよう管理し、実質無借金の状態を維持しましょう。
まず重要なのが銀行への報告です。月次や四半期ごとの業績報告を行い、金融機関との信頼関係を構築します。「借入れ→返済」の実績を積み重ねることで、金融機関との信頼関係が築きやすくなります。月商の3倍の普通預金を確保しておけば、銀行は「支払い能力がある」「キャッシュポジションがいい」と判断する傾向があり、融資を受けやすくなるでしょう。
融資残高が減少してきたタイミングで折り返し融資の検討を行うなど、常に適切な借入残高を維持する意識を持つことが、実質無借金経営の実現には必要です。
無借金経営と実質無借金経営は、それぞれ異なる特徴とメリット・デメリットを持っています。無借金経営は返済義務や利息負担がなく財務の安全性が高い一方、実質無借金経営は安定性と成長性のバランスを取りながら柔軟な経営が可能です。
自社の事業特性や成長段階に応じて、どちらの経営スタイルが適しているかを見極め、計画的な資金管理と金融機関との良好な関係構築を進めることが重要です。
ファクタリングの 達人編集部
自らの経験に基づいた、ファクタリングや与信管理に関する豊富な実績を持ち、これまでに数百社の取引をサポート。
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